『 走れ! ジョー  ― (1) ― 』

 

 

 

 

    ピチュ ピチュ −− −−

 

 

スズメだのヒヨドリだの 時にはハトポッポだのが 朝陽の中で騒いでいる。

彼らは 低いアイアン・レースの門扉の前で 群れているのだ。

虫でもいるのだろうか・・・

 

    たっ たっ  たっ  ・・・・

 

決して速くはないけれど しっかりした足音が近づいてきた。

白髪白髭のご老体 ― この邸の当主殿が ジャージ姿で

朝のジョギングからご帰宅だ。

 

「 お〜〜  お前さん達 相変わらず早起きじゃのう・・・

 お待ち 今 朝メシを持ってくるからなあ  」

 

群がる鳥たちに声をかけ くるり、と首にかけたタオルで顔をぬぐうと 

ご老体はかる〜〜〜い足取りで玄関へと走っていった。

 

   カタン。  ドア・ノブに手を伸ばす前に 扉が開いた。

 

するり、とスキン・ヘッドが現われた。

彼もジャージ姿 ・・・ どうも一汗、流した様子だ。

「 お帰りなさい。  ほい、翼族のブレックファースト ですぞ 」

パンクズの袋が差し出される。

「 お。 忝い。  おや もう稽古かい ミスタ・名優。 」

「 ほっほ  揶揄っちゃあ いけませんや。

  役者から稽古をとったら なにも残りゃしませんぜ 」

「 さよか  盛大に励みたまえよ   時に お嬢を知らんか 

 もう起きてるはずじゃが 」

「 とっくに ストレッチ終わらせてます  レッスン中  」

「 おお そうか ・・・  どれ 小鳥たち〜〜〜 

   朝ご飯だぞ〜〜〜 」

「 博士も毎朝 ・・・ お励みですな 」

「 ああ?  柔軟な思考に 体力は必須なのだよ 」

「 御意。  あ 時に朝食には 珈琲ですかな 」

「 ん〜〜〜  今朝は紅茶で頼む 」

「 了解。  ・・・ ピアニスト氏が担当です 

「 ああ?  ・・・ それなら前言撤回じゃ。

 珈琲に変更ねがう 」

「 お?  彼の紅茶は 」

「 ― お〜っとそれ以上は言わぬが花 じゃ

 というか それぞれの < 専門 > が一番美味い 」

「 なるほど〜  ではウチの末っ子、茶髪ボーイは ・・・ 」

「 ― まだ 寝とるか? 

「 ちょっとのコトじゃ 起きやしませんぜ 」

「 ふん  いい若いモンが ・・・ アイツの珈琲はナシじゃ。

 インスタントの粉で十分だよ。

 ああ もっともヤツらは アレがよいのじゃろ  

 ほら ・・・ アレじゃよ アレ〜〜〜 

「 ははは  泡の出るアレですかな  」

「 左様! アレのなにがよいのか ・・・ 

 炭酸系がよいなら ウィルキンソンのソーダでも飲めばよいのじゃ 」

「 さあ ねえ ・・・ アレはなにか独特の製法があり

 軽く中毒性がある、と聞きましたが 

「 ほほう?  よし 今度意見してやる。 」

「 あ 翼族が待ちわびてますぜ 」

「 お〜〜〜っと ・・・ 」

ご老体は 再びかる〜〜い足取りで 門まで戻っていった。 

 

 

    ピチュ ピチュ ピ 〜〜〜〜〜  

 

    み〜〜んみんみん・・・

 

 

海岸近くに建つ、少し古びた外観のギルモア邸。

鳥の声やら セミの声 溢れる 穏やかな <いつもの> 朝である。

      

 

「 朝ごはん で〜〜す 〜〜〜 」

軽やかな声が リビングから響いてきた。

と いっても 現在、この邸の滞在者たちは すでにほとんどが

リビングやらキッチンの近くに 屯していた。

 

「 ほい ・・・ 」

博士は 新聞を閉じ肘掛椅子から立ち上がる。

「 ん〜〜〜  相変わらずいい香だなあ ・・・・ 

 珈琲はアルベルトに限る ということだ 」

彼は 軽い足取りで食卓に向かう。

「 おお ・・・ 今朝も爽やかに一日を始めますかな。

グレートも 朝のトレーニングの汗をさっぱりと流し、

ラフだが颯爽とした印象の服装である。

「 今朝は〜〜  アルベルトが珈琲担当で〜す。

 ご注文は彼にどうぞ 

フランソワーズは できたてのオムレツをテーブルに置くと

エプロンを外した。

「 ごはんです♪ 」

 

   カタン コトン ガタ  ・・・

 

皆が席につき  いただきます を唱える。

これは < いろいろな > 人々が集うために出来上がった 

この邸の習慣である。

そして この習慣は全員に気持ちよく、そして快諾して受け入れられている。

 

     いただきまあす ♪

 

手を合わせるもの   十字を切るもの   ちょいと目を閉じるもの・・・

それぞれ自由。  それで いいのだ。

 

この邸の 定住メンバーはご当主の白髪白髭老、 金髪美女

そして ・・・ 茶髪少年 である。

定住組は少ないけれど < 仲間 > は 世界中に散っていて

今は 俳優氏 と ピアニスト氏 が仕事で滞在している。

 

グレート氏は 主宰する劇団のトウキョウ公演を前に自主トレ中。

「 今回の舞台 ― 吾輩の 俳優生命を掛けても いい 」

彼の劇団の俳優たちは 真摯な勝負 に出ているのだ。

主役を演じる予定の氏は 毎朝自主トレに余念がない。

フランソワーズと簡単なバー・レッスンをしている。

「 ねえ グレート。 舞台で踊るの? 

 え〜〜 グレートって役者さんでしょ ダンスもするんだ? 」

トレーニング中に 茶髪ボーイから発せられた問いかけに

彼は 当たり前 の顔で応えた。

「 あのなあ ボーイ。  これは吾輩の準備運動を兼ねたストレッチだ。

 身体を柔軟にしておかんと 思いのままには動けんものだのだよ? 」

「 へえ ・・・ それって トシだからぁ? 」

「 シツレイなヤツだな。 

 ほらほら 日々だらだらごろごろしていると お前さんも

 後悔する時がやってくるぞ 」

「 え〜〜〜  そうかなあ 」

・・・ まったく他人事で 茶髪クンは ただへろへろ笑っていた・・・

 

 

アルベルトは 個人アルバム収録のため打合せ で来日している。

本業はピアニストであるから もちろん練習は欠かせない。

また 人気コンサートへのゲスト出演も近日中に控えていてなかなか多忙である。

彼も毎朝 軽いストレッチとジョギングを欠かさない。

「 体力作り??  ・・・ だってピアノ 弾くだけだろう? 

リビングのソファに寝そべり ゲームをしている茶髪ボーイが

不思議そうな顔をしている。

「 ああ 弾くだけ さ。  作品によっては数十分間 な。

 あのな コンチェルトを一曲弾くには膨大な体力と集中力が

 必要なのだ。   お前もな ちっとは締めておかんと

 いざという時に 使いモノにならんぞ 」

「 え〜〜 そうかなあ 

・・・だって ぼく、最新型だし〜 と 茶髪クンは へろへろ笑っていた・・・

 

 

この邸の地下には ロフトを改築した稽古場がある。

完全防音、そして 音響設備完備 ― かなりの広さだ。

「 お前さんのレッスン場だよ。 ここを存分に利用するといい。

 ― バレエ・カンパニーのオーディション、 がんばれよ。 」

「 はい! 」

博士がフランソワーズのために < 造った >。

「 ・・・ 自分だけのお稽古場 なんて ― 夢みたい ・・・! 

 頑張ります ! 」

それ以来 彼女は早起きしストレッチと軽いバー・レッスンをしてから

都心にあるバレエ・カンパニーのレッスンに通って頑張った。

 

現在、その稽古場を 俳優氏、ピアニスト氏も使わせてもらい、

日々 鍛錬を欠かさない。 そのための 体力作りにも励む。

もちろん フランソワーズも今は都心のバレエ・カンパニーに所属していて

日々のレッスンやらリハーサルがある。

そして 彼女は毎朝の 自習 を欠かさない。

 

であるからして。 ギルモア邸の朝は とても早い のだ。

 

「 ふうん ・・・ アルベルト、お前さんのコーヒーは

 濃密で美味いなあ 」

「 お気に召しましたか。 俺は薄いヤツはどうも・・・ 」

「 ふふふ 誰かさんに聞かれないことを祈るわあ。

 わしは ミルクで割ってちょうどいいかな〜〜  かっきり目が覚めるわ 」

「 マドモアゼル。  今朝のこのオムレツは絶品だが

 どこの卵かな 」

「 あ それねえ  地元の養鶏場のなの。 めっちゃウマでしょう? 」

「 大変美味であります、マドモアゼル。 」

「 フロイライン、 濃厚で素晴らしい。 」

「 ・・・ すみません。  大変よい卵だと思いマス。 」

「 ふふふ ・・・ お前さんには行儀・言葉遣いにウルサイ兄と

 伯父がいるなあ  

「 ・・・ なんか ジョーと話してると ・・・ つい。 」

「 あっはっは ・・・ アヤツはカルいのさ 」

「 ふん 軽佻浮薄は好まん。 」 

「 マドモアゼル?  いつもティアラ ( 冠 ) の似合う人物であれ。

 ・・・と、貴女の師が仰っていますぞ 」

「 ・・・ はあい。 気をつけます 」

「 よい よい ・・・  時に 本日の予定じゃが 」

「 はい 」

食卓を囲むメンバー達は それぞれ今日の予定 を 報告。

全員が 外出予定があり あまりのんびりはしていられない。

皆 さっと片付けに協力し それぞれの予定時間に邸を後にした。

 

 

 ―  人々が出払い 邸の中が静かになり・・・

リビングの鳩時計の音が 妙に大きく聞こえるようになったころ。

 

「 ・・・ふぁ〜〜 お おはよう〜 ゴザイマスぅ 」

 

    ぱった   ぱった  ぱった ・・・

 

寝ぼけマナコ 寝癖ジャングルの茶髪ボーイが

ようよう自室から 降りてくる。  スリッパを引きずって。

ふら〜り ふらふら ・・・リビングを抜けキッチンに顔を出す。

 

「 ・・・ あ ?   皆 もう出掛けたのかあ〜  はっや〜〜

 あ  おむれつ だあ ♪   まよね〜ず   かけよっと。

 コーヒーは  ああ インスタントのヤツ どこだあ?

 え〜〜と ・・・ ここかあ〜   うん ・・・ てきと〜に入れて・・・

 パン・・・ は?   あ  あった あった  ・・・ 昨日の?

 チンすれば 喰えるよなあ 」

彼は テーブルの上に残された・冷え切ってしまった朝食を

喜んでお腹に詰め込む。

「 んま〜〜〜  ・・・ 皆 早出なんだなあ〜〜

 ふぁ〜〜〜〜  あ バイトに行かなくちゃ ・・・

 ・・・ あ〜〜 まだ眠い〜〜〜 顔 洗ってないけど いっか〜 

とりあえず自分のマグカップを ささ・・・っと洗い

ついでに ちょちょっと顔を水で拭う。

 

「 ん〜〜〜  あ いけね〜〜〜 遅刻だあ〜〜

 博士の改造・電動チャリ 飛ばせば間に合う か ・・・ 」

 

   ドタバタ  ドタドタ −−−−

 

最後のメンバーは いつも 最後にドタバタと出掛けてゆく。

 

   ― これが この邸の < 標準 > であった が。

 

 

 

 ここ数日 ― 朝の風景は 劇的に!  変わったのである。

 

 

「 お  おはよ〜〜 ございますぅ〜〜 」

 

      ダダダ ダダ ッ −−−− !

 

朝食も終わり さあ 片づけて・・・ と それぞれが椅子を

引こうか、という時分。

ラストに 二階からけたたましい足音と共に ジョーが顔を出す。

ラスト というのは < 外出組 > の最後尾 ということだ。

 

「 はあん?  やっとお目覚めかい ボーイ。 」

「 お おはよう〜〜 ございます〜〜〜 」

「 ふん またギリギリか 

「 ギリギリでも間に合った ってことだわ。

 ジョー わたし達、朝ご飯、終わったところなの 」

「 あ  は  はい   ・・・・ 

 あの! ぼ ぼくが後片付け  やっときます から ・・・ 」

「 おう 任せた。 」

「 メルシ〜〜  ジョー。 あ あなたのオムレツは ラップが

 かけてあるわよ  じゃあ お先〜〜 」

「 う  うん ・・・ あ  は はい 」

ジョーは まだ濡れている前髪を気にしつつ 自分のマグカップを取りだす。

「 ・・・ あ ・・・ コーヒー まだあったかいや〜〜 」

いつも冷えた残り か インスタントのお湯割り みたいのを

飲んでいるので 生ぬるいものでも感激している。

「 んま〜〜〜  ウチのコーヒーってめちゃウマですよねえ〜 」

「 ・・・ まあ なあ ・・・ 

博士は 醒め始めたコーヒーを啜る少年の笑顔をつくづくと眺めた。

 

      あれまあ ・・・・

      こりゃ ちと不憫じゃのう〜

 

      そうじゃ !

      強力アラームつきの目覚まし時計じゃ!

      すぐに作ってやるぞ

 

      うむ うむ 一発で目が覚めるからな

      お前も 早起き組に入って

      早朝の爽快さを 味わえよ

 

 ― 博士は この末っ子 に甘いのである。

 

「 ジョーや。 じゃあな  行ってくるぞ   

 戸締り、頼む。 」

「 あ はい。 行ってらっしゃい 博士 」

「 うむ。 お前もな 遅刻せんようにな

 この前 お前のバイト先の主人に会ったから 宜しく、と言っておいたぞ 」

「 は はあ ・・・ ど〜も ・・・ 」

「 博士〜 駅まで送りますよ 」

アルベルトが ビシっと決めたスーツで降りてきた。

「 おお すまん ・・・ 相変わらず 決まってるのう 」

「 いやいや    さあ 行きましょう。

 この地の唯一の欠点は バスの本数が少ないことですな 」

「 うむ  ― 帽子を取ってくる 」

 

  こうして 住人達は 上機嫌で次々に出かけていった。 

 

     ポッポウ  ・・・ リビングの鳩時計が 一つ、啼いた。

 

「 ・・・ はあ〜〜〜〜 ・・・  メシ 喰ったら

 ・・・ 走る んだっけ・・・・   う〜〜〜  立て! 立つんだ ジョー〜〜〜 」

ぺたん。   言葉とは裏腹に ジョーは 一人、キッチンのスツールに腰を

落とし 溜息を吐いた。

「 く〜〜〜〜  ・・・ 行くぞっ ! 」

やっと ・・・  彼は猛然と 玄関から駆けだしていった。

そう ・・・・ 最近 彼としては最大の早起き ― でも このウチでは一番遅い★

して ジョギングに励む日々なのだ。  彼にしては珍しくずっと続いている

 

        ・・・だって さ。

 

        やっぱ〜〜〜  悔しいじゃんか〜〜〜

        ぼくだって  ぼくだって 

 

        オトコなんだ〜〜〜〜

        す 好きな女の子にさ

        すてき〜〜 とか かっけ〜〜〜 とかさ

        はあと♪ な マナザシ で見られたいじゃん!

 

        ・・・ フランソワーズぅ〜〜〜〜〜

        

        見てろよぉ〜〜 

 

―  つまり ジョー君は < 目覚めた > のである。

 

( 称賛と尊敬、敬愛 などという語彙は平成ボーイの中には なかった 

・・・らしい。 )

彼のこの激変振り は 例のあのコンサートの夜 が切欠だった。

 

 

     ・・・ 少し時間を戻してみると ・・・

 

数日前のこと。

アルベルトの出演するコンサートの開催日が近づいてきた。

今回、彼はゲスト出演なのだが チケットはとっくに完売。

もともと人気のコンサートである上に 開催されるのは

規模は 大きくないが 音響効果はおそらく日本一 とまで

いわれているホールとあって 多くのクラシック・ファンは飛び付いた。

 

「 ―  あら。 嬉しいわ〜〜〜  本当によろしいの? 」

「 はい。 お越しくだされば 大変うれしいです って。 」

「 勿論伺うわ!  チケット、取れなくてがっかりしていたのよ〜

 私ね ヘル・アルベルトの大 大 ファンなの 」

マダムは 本当に嬉しそうだった。

フランソワーズは コンサートのチケットを バレエ・カンパニーの

主宰者であるマダムに 進呈した。

これは アルベルトからの ご招待 なのだ。

 

「 ― これ。 お前さんのとこの あのマダムに渡して欲しい 」

銀髪のピアニストは 最早プラチナ・チケットになっているモノを

無造作に渡した。

「 え・・・ マジ?   あ・・・ 本気ですか 」

「 ああ。 おいでくだされば嬉しいです、と伝えてくれ。 」

「 ・・・ うわ〜〜〜〜〜 すご〜〜い〜〜〜  S席じゃない?? 」

「 招待席だからな。 頼むぞ。 」

「 は はい・・・!  」

 

そんなやり取りがあり 彼女はすっとんで行って 進呈した。

「 ありがとうございます。 彼、喜びます 

「 うふふ〜〜〜  ああ 楽しみ!

 あ ねえ フランソワーズ? 

 ヘル・アルベルトには失礼かもしれなけど・・・

 また・・レッスンにピアニストでウチに来てくださらないかしら 

 スペシャル・ゲストとしてお招きしたいの。 」

「 あの とても楽しかったって言ってます 」

アルベルトは 何回かバレエ・カンパニーのプロフェショナル・クラスで

バレエ・ピアニストを引き受けてくれたことがあるのだ。

「 すご〜〜い贅沢よねえ〜〜 私も最高に楽しかったわ。 」

とにかく マダムは大喜びだった。

 

       よかった〜〜〜〜〜

       アルベルトって物凄い人気ピアニストなのねえ・・・

 

       あ。 あのS席チケ・・ 二枚あったわ

       きゃ〜〜〜〜 

       誰がマダムをエスコートするのかなあ〜〜

 

 

そして さらに − びっくり がフランソワーズを待っていた。

「 マドモアゼル?  アルベルトのコンサートだが 

 そなたは 我らが茶髪ぼーい と行くのかな 」

「 ええ そのつもりよ。  ・・・ 彼にも勉強してほしいの

 クラシックは趣味じゃないのは 知ってるけど・・・ でもね!

 ほら 教養のひとつとして ・・・ 」

「 それは それは。 賢明な選択だな。 」

「 グレートは?  お相手は ― あ ウワサになってる女優さんと? 」

「 ノン ノン。 吾輩は もっと素晴らしいご婦人をエスコートしますぞ 」

「 まあ どなた? 」

「 ふっふっふ ・・・ それは当日のお楽しみ であるよ。

 人生は常に 驚きと感動に満ちているのさ 」

「 ??? 」

「 吾輩の舞台に多大なる関心をお持ちの御方でな ・・・

 マドモアゼルにも ちょいといい話が 近々あるかもしれんよ 」

「 え〜〜〜 なにかしら 」

「 ふふふ 当日のお楽しみ、さ。

 マドモアゼル、せいぜい磨きあげておいで。  ドレスは? 」

「 この前 グレートが選んでくださったあの空色のワンピース・・・ 

 いいでしょう? 」

「 御意。  季節にもぴったりですな Mademoiselle 」

「 うふふ 楽しみ〜〜〜 」

「 ああ 吾輩も久々に胸が高鳴っておりますぞ 」

「 まあ〜〜 どんな方がお相手なのぉ〜〜 楽しみにしています。

 あ そうだわ  カンパニーのマダムがねえ 

 グレートの舞台 チケットお願いできませんか って 」

「 お? 」

「 なんかね 今 すご〜〜く関心があるんですって 」

「 それは光栄なことですな 

名優氏は なぜか余裕の笑みで この新進バレリーナに

丁寧にレヴェランスをしたのだった。

 

 

 ― さて。  コンサートの当日。

 

ざわざわざわ ・・・   うわあ ・・・  はあ〜〜〜

 

コンサート・ホールのロビーは 感歎の溜息と羨望・嫉妬も混じり、 

感動のため息・吐息で いっぱいになった。

その熱気を一心に浴びているのは ― 一組の熟年カップル。

 

イングランド仕立てのスーツを 完璧に着こなした名優と

大人の色気いっぱいに 広く背中を開けたミドナイト・ブルーのドレスに

銀河の星々と見紛うダイヤ達を 煌めかせている女性。

 

正統派・英国紳士が 熟年の魅惑婦人を優雅にエスコートしてゆく。

二人は ゆったりと小声で会話し、微笑を交わしあう。

 

      はあ ・・・  なんか すご・・・

 

      ・・・世界が違うワ  ・・・ 完璧負け。

 

ロビー中の観客が溜息を洩らし振り返る。

 

「 え ・・・!!!   う  わ〜〜〜〜 

 

フランソワーズは 思わず 思わず 絶句してしまった。

自分自身も精一杯のおめかしをし、ちょいと気取って余裕の笑みを浮かべ

ロビー を闊歩していた のである が。

 

グレートは、フランソワーズのバレエ・カンパニーの主宰者・マダムを

完璧かつエレガントな身のこなしでエスコートしているのだ。

 

「 ・・・ すご・・・すぎ 〜〜〜〜〜 」

誰もがこの熟年カップルに 中てられた のである。

 

 

・・・そして マドモアゼル・フランソワーズのお相手は というと。

 ―  数時間前のこと。

 

「 !  ジョー お前 ・・・ その恰好でフランソワーズを

エスコートするつもりか?? 

「 はへ?    えすこ〜と・・? 」

博士は リビングの入口で 絶句してしまった。

準備万端整え、余裕をもって出掛けよう、 というところだったのだが。

 

ジョーは 自分のクルマで皆を駅まで送ることになっているので

めっちゃ上機嫌だ。

お気に入りの皮ジャンにダメージジーンズ、 フットボール用のスニーカー で

おおいに張り切っていた。

 

「 えへ  このスニーカー〜 レアものなんですよぉ

 ホンチャンの選手が履いてたヤツを フリマで ・・・ あぅ ??  」

 

     むず。 

 

博士はこのお気楽少年をひっつかむと有無を言わせず 玄関に引きずってゆく。

「 え ・・・ あの〜〜 」

「 ちょっと  来い!  このままヨコハマまでじゃ。 

フランソワーズや  すまんが劇場のロビーで待っていておくれ 

タクシーで来るのだぞ? よいな。    ではな! 」

 「 はあ ? 」

「 ほれほれ  とっとと運転せんか! 」

「 は はい ・・ 」

博士は ジョーに運転させヨコハマ・モトマチへ驀進させた。

そして 馴染みの老舗・紳士服店に飛び込んだ。

「 すみませんが。   お願いシマス 」

「 おや これは・・・   ようこそいらっしゃいませ、 ギルモア様 」

店主自らが 奥から挨拶に出てきた。

彼はこの老舗の上顧客なのだ。

 

「 すみませんがの   コイツを きちんと仕上げて やって

 くれませんかなあ 」

「 はい。  承りました。 」

年配の店主は 大らかな笑顔で力強く頷いてくれた。

 

  ― そして。

イートン校の生徒か ケンブリッジの学生か と見紛う好青年が

できあがった。  ( 外見だけ は )

 

「 ・・・ 博士 ・・・ こ  れ ・・・   首が ・・・ きつ ・・・ 」

「 ふむ ふむ   まあまあじゃな。 

 よし。 これからコンサート・ホールに行くぞ 」

「 ・・・ 博士  ぼく この服だと 運転 できな 」

「 はあ? なんじゃと? 」

「 全身 カンヅメみたで 動けマセン 」

「 なんだあ? お前、今まできっちり正装したこと、ないのか 」

「 ・・・ 学生服くらい ・・・ 」

「 ふん。 仕方あるまい。 後ろに座れ! 」

「 ・・・ は はい 」

「 ふん!  ワシの腕を見損なうなよ 」

 

   バンッ!!     ヴァ −−−−−

 

博士はジョーを後部座席に積み込むと猛然とアクセルを踏んだ。

 

 

コンサート会場で めでたく? フランソワーズと巡り逢い。

すっきりシンプルだが 上質、上品なドレス姿の彼女と並べば

それは それは 絵になるが ―   彼は ただ立っているだけなのだ。

 

      ぎくしゃく。 ぎくしゃく。    ズ ズズズ     ゴッ ・・!

 

腕を差し出すことも さりげなくエスコートしてゆくことも できない。

真っ直ぐに普通に歩くことすらできないのだ。

周囲では 皆 ごく普通に、でも優雅に振舞っているのに・・・・

そして 彼も 注目の熟年カップルを目撃し ― ぽか〜〜〜んと

口を開けて 見送るだけだった。

 

       ・・・ !

       ぼくが 一番若いのに〜〜〜〜

 

       なんだって あんなに魅力的なんだ???

       どうして あんな風にごく自然に 

       でも かっこよく動けるんだ ??

 

服だけではない。  彼らの洗練された優雅な身のこなし。

ジョーは 立ちんぼ しかできない自分に 心底がっかりした。

 

       ヤバ〜〜〜〜 

    

       ヤバいよぉ〜〜 

       このままじゃ ぼく ・・・

       フランに 呆れられちゃう〜〜〜

 

       !   ・・・ き 鍛えるんだ!

 

       うん。 毎朝 走るぞ〜〜〜〜 !!!

 

 

固く 固く決心し 早起き も決意した のである。

そして < ジョーの目覚め > の直接的な原因は  ― さらに数日後

 

      

        ドタ −−−−− ン !!!!

 

 

轟音がウチ中に響き 実際壁が揺れた。

 

Last updated : 08.30.2022.                  index        /      next

 

**********    途中ですが

ジョー君の 青春試練ストーリー ???  

いやいや たまには こんなコト、あってもいい かな〜〜〜