『 走れ! ジョー ― (1) ― 』
ピチュ ピチュ −− −−
スズメだのヒヨドリだの 時にはハトポッポだのが 朝陽の中で騒いでいる。
彼らは 低いアイアン・レースの門扉の前で 群れているのだ。
虫でもいるのだろうか・・・
たっ たっ たっ ・・・・
決して速くはないけれど しっかりした足音が近づいてきた。
白髪白髭のご老体 ― この邸の当主殿が ジャージ姿で
朝のジョギングからご帰宅だ。
「 お〜〜 お前さん達 相変わらず早起きじゃのう・・・
お待ち 今 朝メシを持ってくるからなあ 」
群がる鳥たちに声をかけ くるり、と首にかけたタオルで顔をぬぐうと
ご老体はかる〜〜〜い足取りで玄関へと走っていった。
カタン。 ドア・ノブに手を伸ばす前に 扉が開いた。
するり、とスキン・ヘッドが現われた。
彼もジャージ姿 ・・・ どうも一汗、流した様子だ。
「 お帰りなさい。 ほい、翼族のブレックファースト ですぞ 」
パンクズの袋が差し出される。
「 お。 忝い。 おや もう稽古かい ミスタ・名優。 」
「 ほっほ 揶揄っちゃあ いけませんや。
役者から稽古をとったら なにも残りゃしませんぜ 」
「 さよか 盛大に励みたまえよ 時に お嬢を知らんか
もう起きてるはずじゃが 」
「 とっくに ストレッチ終わらせてます レッスン中 」
「 おお そうか ・・・ どれ 小鳥たち〜〜〜
朝ご飯だぞ〜〜〜 」
「 博士も毎朝 ・・・ お励みですな 」
「 ああ? 柔軟な思考に 体力は必須なのだよ 」
「 御意。 あ 時に朝食には 珈琲ですかな 」
「 ん〜〜〜 今朝は紅茶で頼む 」
「 了解。 ・・・ ピアニスト氏が担当です 」
「 ああ? ・・・ それなら前言撤回じゃ。
珈琲に変更ねがう 」
「 お? 彼の紅茶は 」
「 ― お〜っとそれ以上は言わぬが花 じゃ
というか それぞれの < 専門 > が一番美味い 」
「 なるほど〜 ではウチの末っ子、茶髪ボーイは ・・・ 」
「 ― まだ 寝とるか? 」
「 ちょっとのコトじゃ 起きやしませんぜ 」
「 ふん いい若いモンが ・・・ アイツの珈琲はナシじゃ。
インスタントの粉で十分だよ。
ああ もっともヤツらは アレがよいのじゃろ
ほら ・・・ アレじゃよ アレ〜〜〜 」
「 ははは 泡の出るアレですかな 」
「 左様! アレのなにがよいのか ・・・
炭酸系がよいなら ウィルキンソンのソーダでも飲めばよいのじゃ 」
「 さあ ねえ ・・・ アレはなにか独特の製法があり
軽く中毒性がある、と聞きましたが 」
「 ほほう? よし 今度意見してやる。 」
「 あ 翼族が待ちわびてますぜ 」
「 お〜〜〜っと ・・・ 」
ご老体は 再びかる〜〜い足取りで 門まで戻っていった。
ピチュ ピチュ ピ 〜〜〜〜〜
み〜〜んみんみん・・・
海岸近くに建つ、少し古びた外観のギルモア邸。
鳥の声やら セミの声 溢れる 穏やかな <いつもの> 朝である。
「 朝ごはん で〜〜す 〜〜〜 」
軽やかな声が リビングから響いてきた。
と いっても 現在、この邸の滞在者たちは すでにほとんどが
リビングやらキッチンの近くに 屯していた。
「 ほい ・・・ 」
博士は 新聞を閉じ肘掛椅子から立ち上がる。
「 ん〜〜〜 相変わらずいい香だなあ ・・・・
珈琲はアルベルトに限る ということだ 」
彼は 軽い足取りで食卓に向かう。
「 おお ・・・ 今朝も爽やかに一日を始めますかな。 」
グレートも 朝のトレーニングの汗をさっぱりと流し、
ラフだが颯爽とした印象の服装である。
「 今朝は〜〜 アルベルトが珈琲担当で〜す。
ご注文は彼にどうぞ 」
フランソワーズは できたてのオムレツをテーブルに置くと
エプロンを外した。
「 ごはんです♪ 」
カタン コトン ガタ ・・・
皆が席につき いただきます を唱える。
これは < いろいろな > 人々が集うために出来上がった
この邸の習慣である。
そして この習慣は全員に気持ちよく、そして快諾して受け入れられている。
いただきまあす ♪
手を合わせるもの 十字を切るもの ちょいと目を閉じるもの・・・
それぞれ自由。 それで いいのだ。
この邸の 定住メンバーはご当主の白髪白髭老、 金髪美女
そして ・・・ 茶髪少年 である。
定住組は少ないけれど < 仲間 > は 世界中に散っていて
今は 俳優氏 と ピアニスト氏 が仕事で滞在している。
グレート氏は 主宰する劇団のトウキョウ公演を前に自主トレ中。
「 今回の舞台 ― 吾輩の 俳優生命を掛けても いい 」
彼の劇団の俳優たちは 真摯な勝負 に出ているのだ。
主役を演じる予定の氏は 毎朝自主トレに余念がない。
フランソワーズと簡単なバー・レッスンをしている。
「 ねえ グレート。 舞台で踊るの?
え〜〜 グレートって役者さんでしょ ダンスもするんだ? 」
トレーニング中に 茶髪ボーイから発せられた問いかけに
彼は 当たり前 の顔で応えた。
「 あのなあ ボーイ。 これは吾輩の準備運動を兼ねたストレッチだ。
身体を柔軟にしておかんと 思いのままには動けんものだのだよ? 」
「 へえ ・・・ それって トシだからぁ? 」
「 シツレイなヤツだな。
ほらほら 日々だらだらごろごろしていると お前さんも
後悔する時がやってくるぞ 」
「 え〜〜〜 そうかなあ 」
・・・ まったく他人事で 茶髪クンは ただへろへろ笑っていた・・・
アルベルトは 個人アルバム収録のため打合せ で来日している。
本業はピアニストであるから もちろん練習は欠かせない。
また 人気コンサートへのゲスト出演も近日中に控えていてなかなか多忙である。
彼も毎朝 軽いストレッチとジョギングを欠かさない。
「 体力作り?? ・・・ だってピアノ 弾くだけだろう? 」
リビングのソファに寝そべり ゲームをしている茶髪ボーイが
不思議そうな顔をしている。
「 ああ 弾くだけ さ。 作品によっては数十分間 な。
あのな コンチェルトを一曲弾くには膨大な体力と集中力が
必要なのだ。 お前もな ちっとは締めておかんと
いざという時に 使いモノにならんぞ 」
「 え〜〜 そうかなあ 」
・・・だって ぼく、最新型だし〜 と 茶髪クンは へろへろ笑っていた・・・
この邸の地下には ロフトを改築した稽古場がある。
完全防音、そして 音響設備完備 ― かなりの広さだ。
「 お前さんのレッスン場だよ。 ここを存分に利用するといい。
― バレエ・カンパニーのオーディション、 がんばれよ。 」
「 はい! 」
博士がフランソワーズのために < 造った >。
「 ・・・ 自分だけのお稽古場 なんて ― 夢みたい ・・・!
頑張ります ! 」
それ以来 彼女は早起きしストレッチと軽いバー・レッスンをしてから
都心にあるバレエ・カンパニーのレッスンに通って頑張った。
現在、その稽古場を 俳優氏、ピアニスト氏も使わせてもらい、
日々 鍛錬を欠かさない。 そのための 体力作りにも励む。
もちろん フランソワーズも今は都心のバレエ・カンパニーに所属していて
日々のレッスンやらリハーサルがある。
そして 彼女は毎朝の 自習 を欠かさない。
であるからして。 ギルモア邸の朝は とても早い のだ。
「 ふうん ・・・ アルベルト、お前さんのコーヒーは
濃密で美味いなあ 」
「 お気に召しましたか。 俺は薄いヤツはどうも・・・ 」
「 ふふふ 誰かさんに聞かれないことを祈るわあ。
わしは ミルクで割ってちょうどいいかな〜〜 かっきり目が覚めるわ 」
「 マドモアゼル。 今朝のこのオムレツは絶品だが
どこの卵かな 」
「 あ それねえ 地元の養鶏場のなの。 めっちゃウマでしょう? 」
「 大変美味であります、マドモアゼル。 」
「 フロイライン、 濃厚で素晴らしい。 」
「 ・・・ すみません。 大変よい卵だと思いマス。 」
「 ふふふ ・・・ お前さんには行儀・言葉遣いにウルサイ兄と
伯父がいるなあ
」
「 ・・・ なんか ジョーと話してると ・・・ つい。 」
「 あっはっは ・・・ アヤツはカルいのさ 」
「 ふん 軽佻浮薄は好まん。 」
「 マドモアゼル? いつもティアラ ( 冠 ) の似合う人物であれ。
・・・と、貴女の師が仰っていますぞ 」
「 ・・・ はあい。 気をつけます 」
「 よい よい ・・・ 時に 本日の予定じゃが 」
「 はい 」
食卓を囲むメンバー達は それぞれ今日の予定 を 報告。
全員が 外出予定があり あまりのんびりはしていられない。
皆 さっと片付けに協力し それぞれの予定時間に邸を後にした。
― 人々が出払い 邸の中が静かになり・・・
リビングの鳩時計の音が 妙に大きく聞こえるようになったころ。
「 ・・・ふぁ〜〜 お おはよう〜 ゴザイマスぅ 」
ぱった ぱった ぱった ・・・
寝ぼけマナコ 寝癖ジャングルの茶髪ボーイが
ようよう自室から 降りてくる。 スリッパを引きずって。
ふら〜り ふらふら ・・・リビングを抜けキッチンに顔を出す。
「 ・・・ あ ? 皆 もう出掛けたのかあ〜 はっや〜〜
あ おむれつ だあ ♪ まよね〜ず かけよっと。
コーヒーは ああ インスタントのヤツ どこだあ?
え〜〜と ・・・ ここかあ〜 うん ・・・ てきと〜に入れて・・・
パン・・・ は? あ あった あった ・・・ 昨日の?
チンすれば 喰えるよなあ 」
彼は テーブルの上に残された・冷え切ってしまった朝食を
喜んでお腹に詰め込む。
「 んま〜〜〜 ・・・ 皆 早出なんだなあ〜〜
ふぁ〜〜〜〜 あ バイトに行かなくちゃ ・・・
・・・ あ〜〜 まだ眠い〜〜〜 顔 洗ってないけど いっか〜 」
とりあえず自分のマグカップを ささ・・・っと洗い
ついでに ちょちょっと顔を水で拭う。
「 ん〜〜〜 あ いけね〜〜〜 遅刻だあ〜〜
博士の改造・電動チャリ 飛ばせば間に合う か ・・・ 」
ドタバタ ドタドタ −−−−
最後のメンバーは いつも 最後にドタバタと出掛けてゆく。
― これが この邸の < 標準 > であった が。
ここ数日 ― 朝の風景は 劇的に! 変わったのである。
「 お おはよ〜〜 ございますぅ〜〜 」
ダダダ ダダ ッ −−−− !
朝食も終わり さあ 片づけて・・・ と それぞれが椅子を
引こうか、という時分。
ラストに 二階からけたたましい足音と共に ジョーが顔を出す。
ラスト というのは < 外出組 > の最後尾 ということだ。
「 はあん? やっとお目覚めかい ボーイ。 」
「 お おはよう〜〜 ございます〜〜〜 」
「 ふん またギリギリか 」
「 ギリギリでも間に合った ってことだわ。
ジョー わたし達、朝ご飯、終わったところなの 」
「 あ は はい ・・・・
あの! ぼ ぼくが後片付け やっときます から ・・・ 」
「 おう 任せた。 」
「 メルシ〜〜 ジョー。 あ あなたのオムレツは ラップが
かけてあるわよ じゃあ お先〜〜 」
「 う うん ・・・ あ は はい 」
ジョーは まだ濡れている前髪を気にしつつ 自分のマグカップを取りだす。
「 ・・・ あ ・・・ コーヒー まだあったかいや〜〜 」
いつも冷えた残り か インスタントのお湯割り みたいのを
飲んでいるので 生ぬるいものでも感激している。
「 んま〜〜〜 ウチのコーヒーってめちゃウマですよねえ〜 」
「 ・・・ まあ なあ ・・・ 」
博士は 醒め始めたコーヒーを啜る少年の笑顔をつくづくと眺めた。
あれまあ ・・・・
こりゃ ちと不憫じゃのう〜
そうじゃ !
強力アラームつきの目覚まし時計じゃ!
すぐに作ってやるぞ
うむ うむ 一発で目が覚めるからな
お前も 早起き組に入って
早朝の爽快さを 味わえよ
― 博士は この末っ子 に甘いのである。
「 ジョーや。 じゃあな 行ってくるぞ
戸締り、頼む。 」
「 あ はい。 行ってらっしゃい 博士 」
「 うむ。 お前もな 遅刻せんようにな
この前 お前のバイト先の主人に会ったから 宜しく、と言っておいたぞ 」
「 は はあ ・・・ ど〜も ・・・ 」
「 博士〜 駅まで送りますよ 」
アルベルトが ビシっと決めたスーツで降りてきた。
「 おお すまん ・・・ 相変わらず 決まってるのう 」
「 いやいや さあ 行きましょう。
この地の唯一の欠点は バスの本数が少ないことですな 」
「 うむ ― 帽子を取ってくる 」
こうして 住人達は 上機嫌で次々に出かけていった。
ポッポウ ・・・ リビングの鳩時計が 一つ、啼いた。
「 ・・・ はあ〜〜〜〜 ・・・ メシ 喰ったら
・・・ 走る んだっけ・・・・ う〜〜〜 立て! 立つんだ ジョー〜〜〜 」
ぺたん。 言葉とは裏腹に ジョーは 一人、キッチンのスツールに腰を
落とし 溜息を吐いた。
「 く〜〜〜〜 ・・・ 行くぞっ ! 」
やっと ・・・ 彼は猛然と 玄関から駆けだしていった。
そう ・・・・ 最近 彼としては最大の早起き ― でも このウチでは一番遅い★
して ジョギングに励む日々なのだ。 彼にしては珍しくずっと続いている
・・・だって さ。
やっぱ〜〜〜 悔しいじゃんか〜〜〜
ぼくだって ぼくだって
オトコなんだ〜〜〜〜
す 好きな女の子にさ
すてき〜〜 とか かっけ〜〜〜 とかさ
はあと♪ な マナザシ で見られたいじゃん!
・・・ フランソワーズぅ〜〜〜〜〜
見てろよぉ〜〜
― つまり ジョー君は < 目覚めた > のである。
( 称賛と尊敬、敬愛 などという語彙は平成ボーイの中には なかった
・・・らしい。 )
彼のこの激変振り は 例のあのコンサートの夜 が切欠だった。
・・・ 少し時間を戻してみると ・・・
数日前のこと。
アルベルトの出演するコンサートの開催日が近づいてきた。
今回、彼はゲスト出演なのだが チケットはとっくに完売。
もともと人気のコンサートである上に 開催されるのは
規模は 大きくないが 音響効果はおそらく日本一 とまで
いわれているホールとあって 多くのクラシック・ファンは飛び付いた。
「 ― あら。 嬉しいわ〜〜〜 本当によろしいの? 」
「 はい。 お越しくだされば 大変うれしいです って。 」
「 勿論伺うわ! チケット、取れなくてがっかりしていたのよ〜
私ね ヘル・アルベルトの大 大 ファンなの 」
マダムは 本当に嬉しそうだった。
フランソワーズは コンサートのチケットを バレエ・カンパニーの
主宰者であるマダムに 進呈した。
これは アルベルトからの ご招待 なのだ。
「 ― これ。 お前さんのとこの あのマダムに渡して欲しい 」
銀髪のピアニストは 最早プラチナ・チケットになっているモノを
無造作に渡した。
「 え・・・ マジ? あ・・・ 本気ですか 」
「 ああ。 おいでくだされば嬉しいです、と伝えてくれ。 」
「 ・・・ うわ〜〜〜〜〜 すご〜〜い〜〜〜 S席じゃない?? 」
「 招待席だからな。 頼むぞ。 」
「 は はい・・・! 」
そんなやり取りがあり 彼女はすっとんで行って 進呈した。
「 ありがとうございます。 彼、喜びます 」
「 うふふ〜〜〜 ああ 楽しみ!
あ ねえ フランソワーズ?
ヘル・アルベルトには失礼かもしれなけど・・・
また・・レッスンにピアニストでウチに来てくださらないかしら
スペシャル・ゲストとしてお招きしたいの。 」
「 あの とても楽しかったって言ってます 」
アルベルトは 何回かバレエ・カンパニーのプロフェショナル・クラスで
バレエ・ピアニストを引き受けてくれたことがあるのだ。
「 すご〜〜い贅沢よねえ〜〜 私も最高に楽しかったわ。 」
とにかく マダムは大喜びだった。
よかった〜〜〜〜〜
アルベルトって物凄い人気ピアニストなのねえ・・・
あ。 あのS席チケ・・ 二枚あったわ
きゃ〜〜〜〜
誰がマダムをエスコートするのかなあ〜〜
そして さらに − びっくり がフランソワーズを待っていた。
「 マドモアゼル? アルベルトのコンサートだが
そなたは 我らが茶髪ぼーい と行くのかな 」
「 ええ そのつもりよ。 ・・・ 彼にも勉強してほしいの
クラシックは趣味じゃないのは 知ってるけど・・・ でもね!
ほら 教養のひとつとして ・・・ 」
「 それは それは。 賢明な選択だな。 」
「 グレートは? お相手は ― あ ウワサになってる女優さんと? 」
「 ノン ノン。 吾輩は もっと素晴らしいご婦人をエスコートしますぞ 」
「 まあ どなた? 」
「 ふっふっふ ・・・ それは当日のお楽しみ であるよ。
人生は常に 驚きと感動に満ちているのさ 」
「 ??? 」
「 吾輩の舞台に多大なる関心をお持ちの御方でな ・・・
マドモアゼルにも ちょいといい話が 近々あるかもしれんよ 」
「 え〜〜〜 なにかしら 」
「 ふふふ 当日のお楽しみ、さ。
マドモアゼル、せいぜい磨きあげておいで。 ドレスは? 」
「 この前 グレートが選んでくださったあの空色のワンピース・・・
いいでしょう? 」
「 御意。 季節にもぴったりですな Mademoiselle 」
「 うふふ 楽しみ〜〜〜 」
「 ああ 吾輩も久々に胸が高鳴っておりますぞ 」
「 まあ〜〜 どんな方がお相手なのぉ〜〜 楽しみにしています。
あ そうだわ カンパニーのマダムがねえ
グレートの舞台 チケットお願いできませんか って 」
「 お? 」
「 なんかね 今 すご〜〜く関心があるんですって 」
「 それは光栄なことですな 」
名優氏は なぜか余裕の笑みで この新進バレリーナに
丁寧にレヴェランスをしたのだった。
― さて。 コンサートの当日。
ざわざわざわ ・・・ うわあ ・・・ はあ〜〜〜
コンサート・ホールのロビーは 感歎の溜息と羨望・嫉妬も混じり、
感動のため息・吐息で いっぱいになった。
その熱気を一心に浴びているのは ― 一組の熟年カップル。
イングランド仕立てのスーツを 完璧に着こなした名優と
大人の色気いっぱいに 広く背中を開けたミドナイト・ブルーのドレスに
銀河の星々と見紛うダイヤ達を 煌めかせている女性。
正統派・英国紳士が 熟年の魅惑婦人を優雅にエスコートしてゆく。
二人は ゆったりと小声で会話し、微笑を交わしあう。
はあ ・・・ なんか すご・・・
・・・世界が違うワ ・・・ 完璧負け。
ロビー中の観客が溜息を洩らし振り返る。
「 え ・・・!!! う わ〜〜〜〜 」
フランソワーズは 思わず 思わず 絶句してしまった。
自分自身も精一杯のおめかしをし、ちょいと気取って余裕の笑みを浮かべ
ロビー を闊歩していた のである が。
グレートは、フランソワーズのバレエ・カンパニーの主宰者・マダムを
完璧かつエレガントな身のこなしでエスコートしているのだ。
「 ・・・ すご・・・すぎ 〜〜〜〜〜 」
誰もがこの熟年カップルに 中てられた のである。
・・・そして マドモアゼル・フランソワーズのお相手は というと。
― 数時間前のこと。
「 ! ジョー お前 ・・・ その恰好でフランソワーズを
エスコートするつもりか?? 」
「 はへ? えすこ〜と・・? 」
博士は リビングの入口で 絶句してしまった。
準備万端整え、余裕をもって出掛けよう、 というところだったのだが。
ジョーは 自分のクルマで皆を駅まで送ることになっているので
めっちゃ上機嫌だ。
お気に入りの皮ジャンにダメージジーンズ、 フットボール用のスニーカー で
おおいに張り切っていた。
「 えへ このスニーカー〜 レアものなんですよぉ
ホンチャンの選手が履いてたヤツを フリマで ・・・ あぅ ?? 」
むず。
博士はこのお気楽少年をひっつかむと有無を言わせず 玄関に引きずってゆく。
「 え ・・・ あの〜〜 」
「 ちょっと 来い! このままヨコハマまでじゃ。
フランソワーズや すまんが劇場のロビーで待っていておくれ
タクシーで来るのだぞ? よいな。 ではな! 」
「 はあ ? 」
「 ほれほれ とっとと運転せんか! 」
「 は はい ・・ 」
博士は ジョーに運転させヨコハマ・モトマチへ驀進させた。
そして 馴染みの老舗・紳士服店に飛び込んだ。
「 すみませんが。 お願いシマス 」
「 おや これは・・・ ようこそいらっしゃいませ、 ギルモア様 」
店主自らが 奥から挨拶に出てきた。
彼はこの老舗の上顧客なのだ。
「 すみませんがの コイツを きちんと仕上げて やって
くれませんかなあ 」
「 はい。 承りました。 」
年配の店主は 大らかな笑顔で力強く頷いてくれた。
― そして。
イートン校の生徒か ケンブリッジの学生か と見紛う好青年が
できあがった。 ( 外見だけ は )
「 ・・・ 博士 ・・・ こ れ ・・・ 首が ・・・ きつ ・・・ 」
「 ふむ ふむ まあまあじゃな。
よし。 これからコンサート・ホールに行くぞ 」
「 ・・・ 博士 ぼく この服だと 運転 できな 」
「 はあ? なんじゃと? 」
「 全身 カンヅメみたで 動けマセン 」
「 なんだあ? お前、今まできっちり正装したこと、ないのか 」
「 ・・・ 学生服くらい ・・・ 」
「 ふん。 仕方あるまい。 後ろに座れ! 」
「 ・・・ は はい 」
「 ふん! ワシの腕を見損なうなよ 」
バンッ!! ヴァ −−−−−
博士はジョーを後部座席に積み込むと猛然とアクセルを踏んだ。
コンサート会場で めでたく? フランソワーズと巡り逢い。
すっきりシンプルだが 上質、上品なドレス姿の彼女と並べば
それは それは 絵になるが ― 彼は ただ立っているだけなのだ。
ぎくしゃく。 ぎくしゃく。 ズ ズズズ ゴッ ・・!
腕を差し出すことも さりげなくエスコートしてゆくことも できない。
真っ直ぐに普通に歩くことすらできないのだ。
周囲では 皆 ごく普通に、でも優雅に振舞っているのに・・・・
そして 彼も 注目の熟年カップルを目撃し ― ぽか〜〜〜んと
口を開けて 見送るだけだった。
・・・ !
ぼくが 一番若いのに〜〜〜〜
なんだって あんなに魅力的なんだ???
どうして あんな風にごく自然に
でも かっこよく動けるんだ ??
服だけではない。 彼らの洗練された優雅な身のこなし。
ジョーは 立ちんぼ しかできない自分に 心底がっかりした。
ヤバ〜〜〜〜
ヤバいよぉ〜〜
このままじゃ ぼく ・・・
フランに 呆れられちゃう〜〜〜
! ・・・ き 鍛えるんだ!
うん。 毎朝 走るぞ〜〜〜〜 !!!
固く 固く決心し 早起き も決意した のである。
そして < ジョーの目覚め > の直接的な原因は ― さらに数日後
ドタ −−−−− ン !!!!
轟音がウチ中に響き 実際壁が揺れた。
Last updated : 08.30.2022.
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********** 途中ですが
ジョー君の 青春試練ストーリー ???
いやいや たまには こんなコト、あってもいい かな〜〜〜